研究内容

吸着・濡れ性・伝熱の機能制御により、水や大気、生活環境をマネージメントする新しい機能性材料の設計・開発に取り組んでいます。

1.新しい環境材料の提案

地球環境問題の1つである環境汚染は多様化しており、ターゲットにあう除去方法が望まれます。水質環境に着目すると、重金属イオンや富栄養化を引き起こす窒素やリン源に加え、着色が問題として挙げられ、対象物を吸着除去できる環境材料を提案する必要があります。

当研究グループでは、表面特性の物理化学的なデザインから水質環境を改善することをめざした材料開発を進めています。溶液化学を用いるプロセスを主に使用して材料を合成し、構造や表面状態の分析、機能評価を行うことで、材料設計に展開し高機能化するアプローチで研究に取り組んでいます。

着色水の無色化

腐食物質と呼ばれるフミン質は地球上に普遍的に存在しますが、5ppm程度溶液に存在するだけで水を褐色にするため、景観的に取り除くことが望まれます。フミン質は多種多様な構造を持つため、細孔構造を利用する吸着材料では包括的な除去が難しいとされています。

第一原理計算(研究協力:中山 将伸 教授 名古屋工業大学)から水酸基を持つガーネット(Ca3Al2Six(OH)3-x)の可能性を見出し、その組成制御により表面官能基(Al-OH、Si-OH)の結合エネルギーを変えることで、従来の吸着材料よりも迅速かつ高効率にフミン質を除去できる材料開発に成功しました。材料を使った水の脱色の様子は以下の動画(約1分)をご覧ください。

開発した材料による着色水(フミン酸由来)の脱色実験

このような独自の表面技術・設計を用いて、水質だけでなく大気汚染を引き起こす物質を除去する材料研究を進めているほか、環境負荷の低減を目指すため、回収するフミン質の循環利用による新たな機能性材料を創出する研究などを始めています。

構造変化を利用するリン酸イオンの資源化

河川などにリン酸源が多く存在すると富栄養化を引き起こすため、多くの対策が提案されています。そのひとつに、材料を添加しリン酸源と化学的に反応させることで、肥料などとして再利用する方法があります。この種の材料として、ケイ酸カルシウム水和物ゲルが挙げられますが、他の材料と比べリン酸回収量が低いことが改善点とされています。 そこで当研究グループでは、機械的エネルギー付与による化学反応によりケイ酸カルシウム水和物ゲル構造を変化させることで、反応性を向上させリン酸イオン回収特性を高めることができました。このとき、その構造内に欠陥サイトが形成することを利用し、紫外線の照射によりリン酸イオン回収特性をさらに向上させることも見出しています。

参考文献:ACS Omega, 5, 4083-4089 (2020)、Royal Society Open Science, 5, 181403 (2018)

2.ガラス構造の制御による表面機能化

ガラスの濡れ性は、表面構造や表面修飾によって制御されることが一般的です。濡れ性を制御する新しい手法として、ガラス構造を意図的に変化させることを試みています。RFマグネトロンスパッタリング法を用いてシリカを主成分とするガラス薄膜を作製すると、構造内に酸素欠陥を導入することができます。これにより、表面構造などは変化することなく、親水性を向上することに成功しました。リン酸塩系ガラスへの展開も進めているほか、ガラス構造への欠陥導入が、ガラスの物理化学的性質に及ぼす影響の検討を行っています。

参考文献:Langmuir, 35, 11340-11344 (2019)、Journal of Physical Chemistry B, 121, 5433-5438 (2017)

3.生物に学ぶ機能性材料の表面デザイン

生物は自然環境で生活する上で、機能化された表面や構造を持っています。この種の機能を科学的に検証し、材料として展開することができれば、これまでにない新しい機能性材料を作り出すことが可能となります。

カタツムリに注目して、セルフクリーニング材料への展開を進めています。カタツムリの殻表面は間隔の異なる凹凸構造を持つため、人工物では発現しにくい特異な濡れ性を示します。表面構造の分析に加え、表面上での水の動きを科学的に理解することを行っています。

モルフォ蝶の翅は、表面構造に起因する青色を示すことが知られています。生物は多機能性を持つことから、表面構造がもたらす新しい機能として伝熱特性に着目し、伝導伝熱・輻射伝熱の研究を中心に進めています。 このような生物の他にも、珪藻やトンボの翅に関する研究を始めています。対象とする生物の物理化学的性質を様々な手法で解析し、機能化の原理を理解し、工学的に設計することで機能性材料を創製することを目標としています。

参考文献:RSC Advances, 10, 2786-2790 (2020)、 Journal of Colloid and Interface Science, 547, 111-116 (2019)